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[SF小説] 羽田一族

四月四日の日曜日、北海道室蘭市に住む羽田圭一は羽田一族にとある家訓を強いた。

「羽田家に産まれた男子は二十六歳の誕生日に絵鞆半島の断崖絶壁から身を投げること」

その日二十六歳の誕生日を迎えた圭一と、身重の妻恵美子両者の間には何か確信めいたものがあり、圭一がその家訓を書にしたためたあと、断崖絶壁から身を投げるのを恵美子は黙って受け入れた。もちろんの事、恵美子は圭一の事を愛してはいたが、その圭一の狂信的とも言える信念と、その信念の向かう先のでたらめさがよりいっそう恵美子の愛と思想に響いたのだ。

恵美子は圭一の教えを守った。圭一と恵美子の息子である浩一にも、父の教え、羽田家子息として課せられたを家訓を彼の人生に刻み込ませていた。圭一が崖に飛び込んで二ヶ月と二十六年後の六月二十日、二十六歳の誕生日であるその日を自らの運命と受け入れていた浩一は、やはり身重の妻多香子をあとに残し、一人絵鞆半島に向かいそして身を投げた。浩一を失い未亡人となった多香子も恵美子とともに、羽田家の家訓を守り抜く気概であった。

崖から自殺する事を宿命付けられた一族、として羽田家の名は室蘭中に広まった。その慣習が行われるようになってニ百年も経った頃には羽田家の子息の二十六歳の誕生日にはテレビ局や多くの野次馬が絵鞆半島に押し寄せるようになった。しかしその頃から、羽田一族の子息にはほんの少しの変化が現れ始めていた。肩甲骨が異常に肥大化した赤ん坊が産まれ始めたのである。

さらに時は流れ、崖飛び込みを決行した初代、圭一の二十六歳の誕生日からちょうど千五百年後の四月四日、圭一から数え五十代目となる羽田家子息である真悟の二十六歳の誕生日がやってきた。真悟は目覚めると圭一の遺影に礼をし、先祖代々の崖飛び込み者への黙祷を捧げた。真悟の妻真琴は真悟が服を着るのを手伝い、「おめでとうございます」と微笑んだ。

真悟は半島へ向かう。そして、今となっては羽田家に産まれるという事がどういう事なのか理解していた。先祖の存在を心と体で感じながら、羽田一族の精神と遺伝子、それらすべてを引き継いでいる自分に誇りを持った。崖の先端に足をかける真悟。それを見守る多くのギャラリー。圭一から始まった一族の答えは出ていた。真悟はゆっくりと飛び、そして無事に帰宅した。

 

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